よく生きる

ソクラテスの弁明・クリトン (講談社学術文庫)

ソクラテスの弁明・クリトン (講談社学術文庫)

「クリトン」は、獄中のソクラテスのもとを友人のクリトンが訪れて、脱獄・亡命を勧めるが、ソクラテスはそれを断り死刑を受け入れるという有名な話。でもいちばん印象に残るのは、冒頭部分の、夜明け前にクリトンがソクラテスの眠っている牢獄に来るところ。二人は同い年で、70歳の老人。目を覚ましたソクラテスは、クリトンが側にいるのに驚いて、いつからいるんだと訊く。クリトンはかなり前からだと答える。それでソクラテスは、なぜすぐに起こさなかったんだと言う。クリトンは、あんまり気持ちよさそうに眠っていたもんだから、と答える。
 70歳の友人がすやすやと眠っているのを起こさないように、側で見守っている同じく70歳。こんな光景が、「よく生き」ているってことな気がする。だからソクラテスが起きて二人が会話を始める前でもう充分という。